2019-10-22

金木犀の木のそばで

甘い香りが街を包む頃、思い出すのは、

出来ることなら忘れ去りたい中学時代の中で、

唯一忘れたくないと思える、

友人のまみちゃんと過ごした時間。

 

朝晩が少し肌寒くなり、

制服も衣替えでブレザーを羽織るようになった中学三年のある放課後、

クラスの違う友達のまみちゃんと、話そうということになった。

街のあちこちで金木犀が見ごろを迎え、

校庭の脇に植えられた背丈ほどのそれも甘い香りを放ち、

私たちの足は、花の方へ自然と向いた。

 

お互いの進路のことや、

まみちゃんの好きな男の子の話を聞きながら、

私たちは甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだり、

十字の形をしたオレンジ色の花を摘んだり、

落ちた花を拾って生徒手帳に挟んだりして、

おしゃべりと一緒に金木犀を楽しんだ。

 

まみちゃんとは2年生の時に同じクラスだった。

笑うと八重歯がのぞき、とても可愛くて、おしゃれさんで、

思ったことをちゃんと言葉にできて、

男女関係なく誰にでも優しく明るく接していて、

いつも周りには人がいて、

お勉強もできて、私とは丸っきり正反対の女の子だった。

私はそんなまみちゃんが死ぬほどにうらやましくて、

友達の誰よりも大好きだった。

だから、晩秋の夕暮れ、まみちゃんと語らえて嬉しくて楽しく思うのと同時に、

胸が締め付けられるほどに切なくなった。

このまま日が沈まなければいいのに。

ずっと話していられたらいいのに…。

 

学校の周りにある街灯がともるころ、

私たちはバイバイした。

 

生徒手帳に挟んだ花たちはしばらく香りが続き、

私は時折その香りをクンクンと確認したりした。

香りが消えてしまってからは、

押し花になったそれらをたまに眺めて、

一人悦に入っていた。

 

もうはるか昔のことなのに、

今でも昨日のことのように思い出される。

香りは記憶を呼び覚ますというのは、

どうやら本当みたいだ。

いつかおばあちゃんになって、

自分の年とか今いる場所がわからなくなっても、

甘い香りを感じたとき、

この放課後の光景を思い出せたらいいな。

 

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